新型コロナウィルスの大流行により、人類は世界的危機に直面しています。
この機会に、2017年夏より構想し、「テクノロジーで人々をエンパワメントする」というミッションの下、2018年11月より一般社団法人Publitechを設立して進めてきたパブリテックプロジェクトへの思いや進捗について、現在フィールドとする福島県磐梯町等の事例も踏まえながら、「アフターコロナと自治体のデジタル変革」というテーマで7回に分けて綴っていきます。
今回は第2回です。
参考:「なぜ、パブリテックは生まれたか〜代表理事菅原直敏ピッチ@一般社団法人Publitech設立キックオフイベント」
※自治体のデジタル変革:自治体がデジタル化を通じて、住民本位の行政、地域、社会を実現するプロセス。デジタルトランスフォーメーション、DX。
●自治体のミッションとヴィジョンは何ですか?
「みなさんの自治体のミッション・ヴィジョンは何ですか?」
これは、私が自治体職員の研修の講師を務める際に、決まって聴くことです。
実は、自治体、民間企業問わず、最も重要なことは、どのようなミッション、ヴィジョンのためにデジタル変革を行うのかということです。組織の人々にこれらが共有されていないと、往々にして職員がテクノロジーを導入することに後ろ向きになるだけでなく、テクノロジーそれ自体が目的となってしまいます。
しかし、実際に参加者に自治体のミッション・ヴィジョンを伺ってみると、答えがまちまちであることに気づかされます。なぜでしょうか?
それは、向かうべき方向性を意識した行政運営を今まで行う機会が少なかったからではないかと思います。また、自治体職員は普段の業務をこなすことに手一杯で、自分たちのミッションについて考える機会が少ないことも原因ではないかと推察しています。
私は、様々な自治体に伺う時に、その自治体の総合計画を必ずみるようにしています。なぜなら、総合計画は、地方自治体の全ての計画の基本となり、地域づくりの最上位に位置づけられる計画だからです。したがって、最新の総合計画に記載されているミッションやヴィジョンがその自治体が向かうべき方向性でなければならないはずです。
しかし、実際にはそうなっていない事例が少なくありません。これは、手続き上は総合計画が最上位の計画であるにもかかわらず、実際の運用上はそのように扱われていないことに原因があるのではないでしょうか?
例えば、自治体職員や議員の皆さんの中で総合計画の理念や全体構造をイメージできる人はどれだけいるでしょうか?また、様々な諸計画が総合計画の共通の理念に基づかず別個バラバラに策定されていないでしょうか?さらには、総合計画を、地域事情をよく理解しない外部事業者に丸投げしていないでしょうか?
おそらく、総合計画の策定が義務だった頃の名残で、なんとなく総合計画を策定し、策定しても真剣にその理念を運用に落とし込もうとしている自治体が意外と少ないのではないかと推察します。
個々に思いをもって職務にあたられている職員の皆さんは少なくありません。ただ、デジタル変革に重要なことは組織全体のミッション・ヴィジョンです。これらができていないのであれば、共有する取り組みがまず必要でしょう。
●流行り言葉は踊らされずに、利用しよう
この図は、私がデジタル変革をする際に参加者に見ていただく一枚図です。私が自治体のデジタル変革で伝えたいことはこの一枚に凝縮されています。
おそらく、今自治体に関わる多くの人たちの頭の中は図左のようにテクノロジーに紐付いた言葉や概念が混在している状態だと思います。ここの言葉や概念への理解が不正確なまま、様々な言葉が生まれては消えていくので、テクノロジーと聞いただけで拒絶反応を起こすようになってしまいます。
AI、RPA、ブロックチェーン、MaaS、スマートシティ、スーパーシティ、Society 5.0、ビッグデータ、○○テック。。。
数え上げればキリがありません。しかし、私は個別の言葉や概念は覚える必要もないし、デジタル変革を進める上では枝葉のことであるので、一回全て忘れてくださいと伝えます。
そして、図右のミッション・ヴィジョンを実現するために必要なものがテクノロジーであり、このミッション・ヴィジョンをテクノロジー「も」つかって実現をしてくのを寄り添って支えていくのが最高デジタル責任者(CDO)であるという説明をします。
つまり、大切なことは「テクノロジー起点」ではなく「住民起点」で物事を考えることです。
ここで、はっと気づかれる職員の方が多いようです。今まで自分たちがやってきたことは間違ってないし、やるべきことは何も変わっていない、ただそれをより住民本位に実現する手段としてテクノロジーがあるだけなんだと。
私が自治体運営を見ていて気になることは、新しい言葉に踊らされる人たちが多いことです。
例えば、ある自治体はSDGsという言葉が流行りだしたら、自治体の全ての計画や事業をその17の目標に当てはめ、職員や住民がその概念を理解し、組織や計画を再構築するために全庁的な部署を立ち上げ多くの費用と労力をつかっています。これはおかしな話です、自治体のミッションとヴィジョンがしっかりしていれば、後付けの概念に自分たちの考えを合わせる必要はないはずです。ましてやみんながバッジをつけるだけでは何も変わりません。
テクノロジーにかかる様々な言葉や概念も同じです。最近、大手ベンダー企業の幹部の方から、「スマートシティをつくりたい」という自治体からの相談が増えているというお話を頂きました。嘘のような本当の話ですが、まさに言葉が一人歩きして、目的になっている好例でしょう。
言葉や概念は、何かを包括的に伝える際に役に立つことがあります。しかし、結局は手段です。言葉に踊らされて、住民本位の行政運営という結果が伴わないのであれば、一切意味を持ちません。
ただ、自治体運営において流行り言葉は戦略的に利用することは必要だと思います。今であればスマートシティやSDGsという言葉を用いた補助金や助成事業などたくさんあります。自分たちのミッション、ヴィジョンを実現し、住民本位の行政を実現するためであれば、戦略的にそのような言葉は活用していくべきでしょう。
流行り言葉は踊らされずに、利用しましょう。
●テクノロジーは手段であって目的ではない
「テクノロジーは手段であって、目的ではない」
これは、私が常々繰り返し申し上げていることです。皆さんこの点については頭で理解をされます。しかし、実際に運用段階に入っていくと、いつの間にか手段が目的化することはよく見られる風景です。
だから、目的であるミッション、ヴィジョンの共有が重要になってくるのです。これが共有されていると、常にアウトカムという目的を意識します。今やっていることが目的化していなかといことを客観的に判断する指標にもなります。
なお、磐梯町は昨年6月に新しく佐藤淳一町長が就任し、「自分たちの子や孫たちかが暮らし続けたい魅力あるまちづくり〜共創・協働のまちづくり〜」をビジョンに掲げました。
そこで、半年かけて既存の総合計画を刷新し、そのビジョンに基づいた総合計画を策定ました。計画の中で、「共生社会とデジタル変革」という項目を設け、「誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創」をデジタル変革の使命にしました。
また、このミッション・ヴィジョンの下、組織条例を改正し、デジタル変革戦略室を設置し、実現のための戦略・戦術を策定することも決まりました。総合計画は議会の議決事項なので、議員の皆さんのご理解と承認を頂いています。職員への理解は、全職員を対象としたDX研修会で促進していきます。
さらに、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」についても、ミッション・ヴィジョンを総合計画と100%リンクさせました。下位計画のミッション・ヴィジョンも総合計画に基づかないと整合性が取れないからです。
何のためにデジタル変革をするのか?
これを自治体のミッション・ヴィジョンを再確認する作業から始めていくことは、最初の一歩です。
アフターコロナの時代、今までの古い慣習や価値観に捉われない住民本位のミッション・ヴィジョンを掲げる自治体とそうでない自治体の格差が、テクノロジーによるてこの原理も働き、大きくなるのではないかと考えます。
シリーズ連載
アフターコロナと自治体のデジタル変革1〜テクノロジーで人々をエンパワメントする
- アフターコロナ
- 平成、変われなかった時代
- 新しい価値を共創できる時代
アフターコロナと自治体のデジタル変革2〜自治体の存在意義を再確認しよう
- 自治体のミッションとヴィジョンは何ですか?
- 流行り言葉は踊らされずに、利用しよう
- テクノロジーは手段であって目的ではない
アフターコロナと自治体のデジタル変革3〜戦術よりも戦略、現状把握をしよう
- RPAに失望する自治体
- ビジョンに至るまでの戦略を描こう
- ミッション・ビジョンがぶれなければ、戦略・戦術はピボットしても良い
アフターコロナと自治体のデジタル変革4〜全ては人と仕組みから始まる
- 司令塔の不在
- 組織の不在
- 議会の重要性
アフターコロナと自治体のデジタル変革5〜適切な理解と人材活用
- ICT化とデジタル変革の違い
- 誰一人取り残さない
- 埋れている人材を活かそう
- 成果につながらない実証実験と包括連携協定
- 自分たちで考えよう
- 重要なのはパブリックマインド
アフターコロナと自治体のデジタル変革7〜アフターコロナの自治体像
- 新型コロナウィルスの危機は日本社会社会のリトマス紙
- 私たちは何を望みたいのか
- 行動するかしないか
菅原直敏
一般社団法人Publitech 代表理事
磐梯町CDO(最高デジタル責任者)。ソーシャルワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士、福祉にかかる4大国家資格を有する)。介護事業所を複数経営する企業の法人本部長として、経営および現場業務にかかわる。また、「共創法人CoCo Socialwork」 CEO、出勤しない会社、持たない会社、給与以外の価値を与える会社をコアバリューとして、自分らしい働き方の実践を行う。テクノロジーを活用して人々をエンパワメントするパブリテックという概念を提唱し、行政のデジタル化、社会のスマート化、テクノロジーによる共生社会の共創を目指すソーシャルアクションを行なっている。さらに、株式会社Public dots & Company取締役として、官民共創の取り組みを推進する。
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