2018年11月13日(火)、LIFULL HUBで行われた、一般社団法人Publitechキックオフイベントにおける、代表理事菅原直敏のショートピッチの様子をお伝えします。
パブリテックはなぜ生まれたか
パブリテック〜テクノロジーを活用して人々をエンパワメントすること。これは、1年以上かけて、様々な人たちと対話する中で共創した概念です。
みなさん、本日はお忙しい中、一般社団法人Publitechの設立キックオフイベントにお越し頂きありがとうございます。社団を代表して御礼を申し上げます。
私は、一般社団法人Publitech、代表理事を務めさせて頂いております。菅原直敏です。どうぞよろしくお願いします。
今日はせっかくの機会ですので皆さんにパブリテックについて少しお話をさせて頂けたらと思います。
今日、みなさんにお伝えしたいことは、3点あります。「経緯、なぜ、パブリテックは生まれたのか」、「定義、パブリテックとは何か」そして「世界観、社団は何をする団体か」です。
たった3点ですので、その内容を受け止めて頂いて、パブリテックに知って、考えて、行動するきっかけにして頂けたらと思います。
まずは、経緯、なぜ、パブリテックは生まれたのかについてお話をします。パブリテックを着想するにあたり、3つの思いがありました。「課題意識」、「自分らしく生きる」そして「新しい世界観、価値観」です。
課題意識
最初の思いは、課題意識です。私はソーシャルワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士の国家資格を保有)として、福祉・医療に関わる人たちと仕事をしています。職場は介護事業所なので、ケアワーカーとして介護に携わってもいます。みなさんご存知の通り、介護・福祉の現場って課題が山積なんです。
ですが、政治も行政も有効な対策を立てることはなかなかできません。それは、予算が限られる中で、ヒト・モノ・カネを投じる従来の方法には限界があるからです。また、現場の人たちも自分たちの仕事でいっぱいいっぱいで、有効な改善提案が上がってくることはほとんどありません。このままでは、何の課題も解決しないと思っている中で、テクノロジーを活用すれば、様々な問題は解決するのではないかって単純に私は考えました。
介護施設では、1日に何回かバイタルチェックと言って、血圧、脈拍、体温などを測定します。人にもよりますが、記録作業まで入れると、この一連の測定に一人当たり2〜3分かかります。つまり、10人の利用者がいれば30分、20人いれば60分というように、マンパワーによって解決される業務です。
例えば、バイタル測定を自動的にできるリストバンドを利用者がつけて、そのデータを記録データとして飛ばすことができたらどうでしょうか?バイタル測定や記録作業の時間が軽減され、職員はよりケアに集中できる環境が整います。
それだけではありません。そのバイタルデータは定点ではなく、リアルタイムで線として把握できますから、AIなどを用いれば特別な変化にも自動的に気づくことができます。さらに、これらのデータを、利用者の承諾を得て、かかりつけ医、ケアマネジャー、家族などにクラウドで共有することができれば、エビデンスに基づいた健康維持とADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の向上に大きく役に立ちます。そして、これらの一連のシステムは、現在の技術でも、それほど大きな費用をかけなくても可能ということです。
ところで、介護事業所の運営に関わっていると、ケアにいかに集中できないかということがわかります。私たちのケアを邪魔する人たちがいるんです。みなさん、それは誰だと思いますか?
参加者:「役所。」
正解です。介護・福祉・医療は、保険制度によるビジネスなのでお役所への対応が本当に多いんです。彼らは国が決めた法律・制度を執行しているだけなのかもしれませんが、役所との書類業務は現場をブラックにしている元凶です。役所との書類のやりとりの時間って、事業所にとっては何も生み出さない非生産的な時間です。役所の人たちはその対応で残業したって給料をもらえますが、多くの介護事業所では、時としてサービス残業や代表者が自分のプライベートな時間を削るなどでその膨大な書類業務が処理されています。これも、書類業務が高度にデジタル化され、UX(ユーザーエクスペリエンス)が良い形になれば、瞬間的に終わるものも少なくないはずです。でも、実際はそうならない。
こう考えると、行政のデジタル化や施設のスマート化は絶対に必要だと。こういったこと、理念を持ってやっている国が、行政のデジタル化ではエストニア、デジタル化と社会のスマート化という視点ではデンマークだったりするのですが、日本は追いついていない。
では、なぜ、日本では行政にも施設にもテクノロジーの実装が追いつかないのでしょうか?例えば、介護現場の人たちにテクノロジーについてお話しすると、「テクノロジーを入れたら、フェイストゥーフェイスのケアができなくなる!」みたいなことをいう人が結構いるんです。でも、先ほどのお話からすれば、これは大きな誤解ですよね。むしろ、テクノロジーを活用することで、ケアに集中できる環境ができるはずです。
あるいは、以前、県議会で行われる質問をつくったことがあります。自動運転車についての質問です。内容は、「自動運転車技術が高度に発達すると、モビリティ(移動性)のあり方が大きく変わり、街づくりや道路整備のあり方も大きく変わらざるを得ないので、様々な計画の変更が必要である」といったニュアンスのものでした。そうしたら、県の幹部職員の人は、「自動運転車が普及すると、免許を持たない人も車に乗るようになるので、交通量が増え、渋滞が悪化するので、道路はもっと必要になる」ですとか、ある議員からは「自動運転車なんて50年経ってもできるわけないだろう」みたいなことをつぶやかれたんですね。
でも、自動運転技術が高度に発達すると渋滞は解消されるし、自動運転車も部分的な自動運転車であれば日本の公道を走っています。レベル4(高度自動運転)、レベル5(完全自動運転)についても、日本を含めた世界各国が2020年代の実装を目指してしのぎを削っています。
先ほど登場した現場の介護職員も、行政職員や議員も、テクノロジーに対する誤解や無知が障壁となって、テクノロジーの実装を妨げたり、軽視する結果となっています。つまり、テクノロジーの活用を前向きに進めていこうとする人たちと、そうでない人たちとのギャップが障壁となっていると感じました。このギャップをどのように埋めていくことが出来るのかというのは、社団の重要な役割であると考えています。
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